ワルツィングマチルダ

 

薄っすらと夜中の雨が降っている。

 

友達と酒を飲んだ帰り道。

いつも通り、おれはまっすぐ帰る気にはなれず、西武線の乗り場で友達を見送ってから、大きく遠回りしながら西口、自転車を迎えに行った。

 

 

雨に濡らされた街からは少しだけ夏の匂いがした。

迷った末にシメの家系ラーメンを食べに行って、外に出て煙草を1本吸った。

少し雨が強くなってきていた。

"Martha"  イヤフォンから酔いどれトムのブルースがきこえてきた。

なるほど、たまにあるこんな夜か。

 

 

中野と高円寺の間にあるアパートで暮らしていた頃、

いつもトムの歌を聴いていた時のことを鮮明に思い出した。

 

むんむんとした部屋でひとり、ボトルから直にキメるノイリープラット。

 

お互いにどうしようもないくらいにお金がなかった友達とよく行った、高円寺のピンサロ通りの安スナック。

 

たまの休みの日。ノートと文庫本を持って入り浸った中野のミスタードーナツの喫煙席。

 

どんなシチュエーションでもトムのブルースを聴いていたような気がする。

 

 

しっかりめに酒が入ると、いつもこんなフィーリングになる。

いつも酒を飲み、真夜中の中野の街を彷徨い歩いてた20歳過ぎのフィーリング。

少なくともまだしばらくは引きずりながら暮らていく気がする。

 

 

 

閉店近いバーのカウンター。

隣に座ってバーボンを飲んでたトムウェイツが

「自由になりたいなら旅をするように暮らすことさ」とおもむろに呟いた。

 

ワルツィングマチルダウィズミー