ジョーストラマーになれなかったよ

 

地下鉄

新木場行きの電車がくると

おれはベティデイビスを聴きながら

小さいドアから乗り込む

ちょうどリズムアンドブルース1曲分

駅のエスカレーターにはたくさんの人が列をなしている

横の階段はがらがら

みんなそんなに疲れているのかなあ

 

 

ルミネの入口は

除菌用アルコールに群がる東京風OL的な女性たちで行列ができている

おれもなんとなく混ざり込む

BEAMSを通りぬける

どこかからスイーツかなにかの甘い匂いが地下道を満たしている

 

 

タイの田舎からの電話が鳴る

いつのまにか世界も小さくなったもんだ

ビデオ通話に出たとたん、昼間っからどぶろくを飲みながらゴキゲンな友達の声が響く

彼女は前の旦那と別れて11歳下、27歳の新しい旦那ができたという

新しい旦那というひょろっとした男は電話口の横で慣れた手つきで煙草を巻いている

彼女はかなりカジュアルに結婚と離婚を繰り返している

向こうの電波が壊滅的に悪く、映像が固まり始めたのち、通話が切れる

いつもこんな具合だ

 

 

傘をさしてしばらく歩く

雨の匂いと安っぽい鉄みたいな匂いがする

いつものカフェに入りコーヒーを飲む

世の中はゴールデンウィーク

カフェはほとんど満席だ

これから10日間くらいは毎日、街はこんな様子なのかと思うと反吐が出る

 

 

すぐ隣の席では、明らかになにも考えていなそうなカップルが友達の恋愛話をしている

おれはジャマイカ産のレゲエを聴いている

キングストンの砂埃の匂いがしてくる

反対隣では50代くらいのおばさんが延々スマホでゲームをやっている

このカフェの平常運転はわりと世の中の平常運転だと思っていて

少し寂しい気持ちになる

どうも最近世の中はおれがどうでもいいと思うことばっかりに埋め尽くされてきている気がしてる

 

 

決して悲観するわけじゃない

今の時代は自分がみたいものはなんだってみれるしどこにでもいける

少なくとも今ここでも

おれのコーヒーを飲むペースは限りなく自由に近い

冷め始めたコーヒーは昔みたアメリカ映画みたいな味がする

外はまだ雨が当たり前みたいな顔をして降り続けている